メッセージ紹介
総合審査員長からのメッセージ
子どもたちの感性に未来を託して
体温を超える「災害級」の気温が各地で記録されるようになった日本の夏。世界的な異常気象と頻発する自然災害は、「水の惑星」である地球からの悲鳴であり、警告であるように思えてなりません。
「ざぶん賞」は、命の源である水をキーワードにして、次代を担う子どもたちの感性に未来を託そうと2002年に始まりました。水や地球、いのちをテーマにした作品を募集することで、その純粋な言葉のしずくが社会に波のように広がってほしいという願いが込められています。
活動の背景には、暮らしの利便性を追求する中で、水を通じてつながっていた自然と人間との距離が広がってしまったことへの危機感がありました。地球温暖化対策として、先進国に温室効果ガスの排出削減義務を定めた「京都議定書」が発効するのはその2年後のことです。
つながることの大切さ
しかしながら世界の状況は、私たちの願いとは裏腹な方向に進んでいるように見えます。温暖化は災害発生のリスクを高め、各国の指導者は一致団結してこの事態に立ち向かうことができていません。それどころか、国や地域を超えて頻発する紛争は子どもたちの命を奪い、環境や文化も破壊しています。人間の力でコントロールできない原発事故の恐ろしさも経験しました。SNSでは過激で排外的な言説が影響力を持ち、人権が軽んじられ、社会の分断と孤立化が進んでいます。
そんな時代だからこそ、原点に立ち返り、水の存在とともに、子どもたちが持つみずみずしい感性の力に目を向けたいと思います。ざぶん賞の創立20周年を記念して始めた「ざぶんSDGs大賞」は、小中高校生のSDGs活動を支援することが目的です。「だれ一人取り残さない」というSDGsの理念を実践し、活動を通じて人と人がつながり、その輪が次第に広がっていく。そんな地域社会の姿を目指しています。
2024年の元日、ざぶん賞を運営する「一般財団法人ざぶん環境・文化プロジェクト」の本部・事務局のある石川県は能登半島地震に襲われました。2年以上が過ぎた今でも、いまだに多くの被災者が不自由な生活を強いられ、復興と生活再建は道半ばです。一方で、これまでに全国から多くのボランティアが現地に入って活動し、善意の支援物資も多数寄せられました。社会の垣根を超えて被災地と被災者に寄り添う人々の姿に、つながることの大切さを改めて教えられました。
2025年2月には、「ざぶん」の能登半島地震復興応援プロジェクトとして制作した「輝けこころ」4作品の目録が現地に届けられました。石川県珠洲市立大谷小中学校の生徒4人が「2023年ざぶん賞」に応募してくれた作文を、同市出身の絵師、西のぼる先生の挿絵で作品化したものです。子どもたちが明るい未来を開くことを祈念して、栃木から石川へとつないだ絆のバトンです。「ざぶん」の活動の意義を象徴するものと言えるでしょう。
やがて一滴は大海に
AI(人工知能)は、人類にさらなる利便性をもたらす一方で、さまざまなリスクを抱えながら社会を変容させようとしています。それでも、他者への思いやりを持って何かを生み出し、支え合うことは、人間にしかできません。人が生きる上で不可欠な水は、人と人とのつながりを媒介する大切な役割も持っているのです。
私が携わる新聞ジャーナリズムにも、同じことが言えます。記者が生身の人々と向き合って声をすくい上げ、紙面を通じて人と人をつないでいくことは、AIにはできないからです。その意味で、生きた情報を伝える新聞の存在もまた、社会における水のようなものだと言えるかもしれません。
「ざぶん」は、これからも子どもたちの感性を信じ、想像力を育てる活動を続けていきます。不確実で不透明な時代の中でもあきらめることなく、この先に持続可能な社会と、子どもたちの笑顔が輝く未来があると信じて。ひとしずくは小さくても、それが集まって大きな流れとなり、やがて世界をつなぐ海を形づくっていくように。
ざぶん賞
審査員長グランパ・グランマからのことば
嬉しいことに「考えよう 水のこと 命や自然のこと」という人類に与えられたざぶんの課題が、回を重ねるごとに少しずつ前進しているように思われる。
参加して下さった、多くの小学生中学生の方々が、ざぶんに応募する時だけであっても、人類に与えられた責任に対し真剣に向かい合って下さることに、喜びと安堵を覚えている。この心ある波音が全世界に広がり、子どもはもちろんのこと世界を動かしている大人や国々の要人に浸透することを願っている。
今回の応募作品はまことに実り多く、それぞれに点数を付けることは大いに難しかった。我々が、日常において無意識に口にしている米や野菜や肉、そして島国日本を代表する産業である漁業。それらの多くの資源は健康な青い地球から生まれている、と言っても過言ではない。この素晴らしい地球の環境が、年を追うごとに荒(すさ)み始めている。かつては、産業革命という言葉は輝かしいものであった。人間の暮らしの平和や、便利さを追い求めることを理想としていた時代も…。
しかし、人間の暮らしのためであった甘い果実は、次第に地球温暖化や海の汚染、そして広大な農地となっていた大地は、旱魃(かんばつ)や戦争による地雷原となり、人類に背を向け始め、果実の収穫は無になりつつある。こうした人類、いや地球上に営みを持つ全生物の生命を守るためにも、今、我々が一つになって地球を守っていかなければ明日の子供達の居場所は確実に消滅してしまうのではなかろうか。
そうしたことに呼応して下さった、皆さんの作品には魂があった。お爺ちゃんの作る田んぼのお米は本当においしそうで、ぜひ食べてみたいと思ったし、夢を叶えて漁師になって初めて漁れた魚は、刺身に拵(こしら)えて味わいたいと真剣に思いました。他にも、海の話川の話山の話等々…。素敵な作品が数多くあり、大いに悩みましたが中に期限を決めて一年間離島に留学したり、山村留学という制度もあるとか。これからの日本、こうした留学生に託すこともありかも知れない。
毎日何気なく食べているお米が、水と人が力を合わせて育てられていることを、実感を持って語ってくれている話に惹かれました。
小さな一粒の種もみが水の力で芽を出し育ち苗になり、山から流れてくる水を張った田んぼに、一本一本手で植えられていきます。田んぼに、アメンボが、オタマジャクシが泳ぎ、トンボが蛍が飛び、生き物の楽園になります。水は稲だけでなく、そこにいる生きるもの全ての命を育み支えています。そして、その水はただそこにあるのではなく、稲が育っていくのにちょうど良い状態にあるようにと絶えず人に見守られているのだそうです。そうやって稲は大きくなって行き、穂をつけ米を実らせ、私たちの命を支えてくれます。聞けば、小さな一粒の籾から育った一株の稲に実ったお米で、コンビニのおむすびが一個作れるのだそうです。
役目を終えた田んぼの水は川に入って海へと流れていきます。川は清濁の区別をせずに、全てを海に運びます。壊れたポリバケツ、忘れられたおもちゃ、風に飛ばされてきたポリ袋、ゴミとなって海へ運ばれ、波に砕かれ、微小な破片、マイクロプラスティックになって海に散らばり、食べてしまった魚の命を蝕みます。回収は不可能です。分解して無くなることもなく、いつまでも海にあり続けます。これ以上増やさない為に人が出来る事は、川に海にゴミを捨てない、海のいきものたちだけでなく、生きるものすべてを守っていくためです。
河辺や海辺のゴミを拾っている人たちのことを話してくれました。子ども達も一緒になって拾ってくれています。次に行くとまたゴミが散乱していて、でも拾い続けます。その姿に、手にしていたペットボトルを家に持ち帰ってくれるでしょう。小さな意識改革です。小さくとも正しい意識は、集まって力となって、汚れた川を魚が住む綺麗な川にする後押しをします。子供達の正しい意識が世の中を変えていきます。
身近な水にまっすぐ向かい合って、感じたままを自分の言葉で語ってくれる話は心に響いて、読んでいると水への興味の扉が次々と開かれていきました。
「夏の音」は、大好きな作品です。音が遊びに来る。初めて出会った、いつまでも私の心にあり続ける素敵な言葉です。
秋はどんな音が遊びに来るのかな。冬の音、春の音。私も窓を開けて耳を澄ませて、遊びに来るのを待っています。
ざぶんSDGs大賞2025
審査員長 講評
受賞された皆様、誠におめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。
今回も人と人が繋がる、人と地域が繋がる活動に接する機会をいただき、感性豊かな子どもたちの創造力や行動力などが未来を切り開く大きな力となっていることを感じることができました。
全体的な感想になりますが、活動内容については、学校での学びからの専門性を活かした地域課題や社会課題の解決に向けた活動、学年ごとのテーマ性のある活動、社会貢献のための幅広い分野にわたる活動など、団体の特性や強みを活かした取り組みが多く、いずれもSDGsの目標とする持続可能でよりよい社会の実現に向けた活動への高い意欲がうかがえました。
また、一定の目標を掲げた上で、フェーズごとに検証を行いながら着実に取り組みを進めている団体も多く、それらの過程を通して、子どもたちの大きな成長につながっていることも印象的でした。
さらに、専門家等と連携・協力しながら、めざましい成果を上げている活動も見受けられるなど、今後の発展性を感じるとともに期待感も膨らみました。
受賞された皆様は、活動の場はそれぞれながらも、人や地域との交流を図りながら様々な工夫を凝らして活動を進めています。今後も継続した活動と新たな展開を期待したいと思います。
また、ざぶんSDGs大賞が多くの団体の活動支援につながることにより、未来社会に向けた持続性のある取り組みが更に広がっていくことを願っています。
ざぶんの想い
- ざぶん賞実行委員長(2003〜2008)を務めた故筑紫哲也氏よりいただいた、ざぶん賞発足時のメッセージ。
ざぶん賞発足時の
メッセージ
周りを海に囲まれた日本は、昔から海や川は生活において、関わりの深い存在でした。道路や鉄道が発達していないところは、海がハイウェイでした。
少し前まで、私を含め、日本の子どもたちは、海や川がとても近い存在でしたが、
最近は、海や川だけでなく、自然と私たちの関係の距離がずいぶん開いている感があります。どうしてそうなったのでしようか。
また、世界の中で、現在こんなに外で子どもたちが遊んでいない、自然と遊んでいないという国は他に見当たりません。
政治家の皆さんにも教育問題を深刻に考える人は最近多くいますが、こうした状況をどう考えるのかと問い掛けました。
危険だから、汚いから川に入ってはいけない、もぐってはいけない、魚を捕ってはいけない・・・
各地で子どもたちに、このような教育がされているようです。
今の子どもたちは、人間は水や海とどんな関係があるのか、またこれからどう接するべきか。
このようなことがわかる大人に、果たしてなれるでしょうか。
私は現在スローライフということを言いつづけています。
ゆったり、豊かに、ゆっくり生きることを考えてみようということです。
私たちの先祖は「緩急自在」という言葉を残しています。
ゆったりしたり、急いだりすることを自分でコントロールすることの大切さを表現したものです。
世の中いろいろな場面で「ファスト」になっています。「スロー」の部分を見つめ直し、人間が何のために生きているのかをしっかり考えることを呼び戻すべきではないかと考え、活動しています。
さて 「水」は近い将来人類にとって大問題になると予想されます。
世界のいたるところで、石油ではなく、水の争いが起こる可能性が高い、それがこの二十一世紀ではないでしょうか。
水や海を通して、私たちの生き方や地球との関わりを考えていこうという試みが、この「ざぶん賞」であり、スローライフの考え方と共通するものであります。そして、全国に向けて発信し、地域を越え多くのアーティストや賛同者が参加することに、たいへん意義があります。
ささやかな運動かも知れませんが、「ざぶん賞」が目指そうとしていることは非常に大きなものである、と自負しています。